
膝の痛みとは
膝の痛みは、膝関節やその周囲の組織に生じる痛みや不快感を指します。日常生活の動作に大きく影響し、立ち上がり、歩行、階段の上り下りなどが困難になることがあります。原因は年齢による変化、スポーツによる損傷、姿勢の問題など様々で、適切なケアと対処が重要です。
膝の痛みの主な種類
変形性膝関節症
加齢や長年の使用による関節軟骨の摩耗が原因で起こる慢性的な痛みです。特に朝の起床時や長時間の休息後に硬直感があり、動き始めると和らぐ特徴があります。
膝蓋大腿部症候群
膝蓋骨(お皿)の周囲に生じる痛みで、ランナーズニーとも呼ばれます。階段の昇り降りや長時間の座位で痛みが強まる特徴があります。
靭帯損傷・半月板損傷
スポーツや事故による急性の損傷で、膝の安定性に影響します。特に方向転換時に痛みやグラつきを感じることがあります。
膝滑液包炎
膝の滑液包(関節の動きを滑らかにするクッションのような袋)に炎症が生じる状態。膝の前面に腫れや赤みを伴うことがあります。
鵞足炎
膝の内側にある腱の付着部に炎症が生じる状態。特に膝を曲げ伸ばしする際や膝の内側を押すと痛みを感じることが特徴です。
膝の痛みの主な原因
加齢による変化
年齢を重ねるにつれて、膝の関節軟骨は徐々に摩耗し、関節の潤滑機能が低下します。これにより骨と骨が直接接触しやすくなり、摩擦や炎症が生じて痛みの原因となります。特に50歳以上で変形性膝関節症のリスクが高まります。

過度の負荷や繰り返しの動作
長距離走、ジャンプを繰り返すスポーツ、しゃがんだり立ったりする動作を頻繁に行う職業などは、膝に過度の負担をかけます。これにより軟骨の摩耗が促進されたり、腱や靭帯に炎症が生じたりします。
急性の外傷
スポーツ中の転倒や衝突、急な方向転換などによって、膝の靭帯(前十字靭帯など)や半月板に損傷が生じることがあります。これらの損傷は急性の痛みや腫れ、時には不安定感をもたらします。
体重と姿勢の問題
過体重や肥満は膝への負担を増大させ、関節軟骨の摩耗を加速させます。また、足のアーチの異常(扁平足など)や、O脚・X脚などの下肢のアライメント異常も、膝への負担の偏りを生じさせ、痛みの原因となります。
筋力の低下やバランスの問題
大腿四頭筋(太ももの前面)やハムストリングス(太ももの裏側)などの筋力が低下すると、膝関節の安定性が損なわれ、関節への負担が増大します。特に内側広筋の弱化は膝蓋骨の正常な動きを妨げ、膝蓋大腿部症候群の原因になります。
炎症性疾患
関節リウマチや痛風などの炎症性疾患も膝の痛みを引き起こすことがあります。これらは関節内の炎症や結晶沈着などによって痛みや腫れを生じさせます。
膝の痛みのセルフケア方法
膝の痛みは適切なセルフケアで改善できることが多いです。症状の種類や原因に応じた対処法を試してみましょう。
急性期の対処法(RICE処置)

特にスポーツなどで膝を痛めた直後は、以下のRICE処置が効果的です:
- Rest(安静):痛みのある膝を休ませ、過度の負担を避けます。完全な安静ではなく、痛みのない範囲で軽い動きを継続することが大切です。
- Ice(冷却):氷や冷却パックを15〜20分程度当てて、炎症や腫れを抑えます。タオルで包んで直接肌に触れないようにし、2〜3時間おきに繰り返します。
- Compression(圧迫):弾性包帯や膝サポーターで軽く圧迫し、腫れを抑えます。ただし、血流を妨げるほどきつく巻かないよう注意します。
- Elevation(挙上):膝を心臓より高い位置に上げ、腫れの軽減を促します。横になって膝の下に枕を置くなどの方法があります。
これらの処置は特に発症から24〜72時間以内に効果的です。
膝周りの筋肉強化エクササイズ
膝の安定性を高めるためには、周囲の筋肉(特に太ももの筋肉)を強化することが重要です。以下のエクササイズを痛みのない範囲で行いましょう:
太もも前面の筋肉(大腿四頭筋)の強化
- 仰向けに寝て、片方の膝を伸ばします。
- 伸ばした足の付け根から足首まで全体に力を入れ、太ももの前面の筋肉を5秒間収縮させます。
- 力を緩め、10回繰り返します。
- 徐々に回数や収縮時間を増やしていきます。
脚上げエクササイズ
- 仰向けに寝て、片方の膝を曲げて足裏を床につけます。
- もう片方の膝を伸ばしたまま、足を床から20〜30cm程度持ち上げます。
- 5秒間保持してから、ゆっくりと下ろします。
- 10回程度繰り返し、反対の足も同様に行います。

ストレッチング
柔軟性を維持することも膝の健康には重要です。以下のストレッチを優しく行いましょう:
太もも前面のストレッチ
- 壁や椅子に片手をついて支えとします。
- ストレッチする側の足を後ろに曲げ、同じ側の手で足首をつかみます。
- かかとをお尻に近づけるようにして、太ももの前面が伸びるのを感じます。
- 20〜30秒キープし、反対側も行います。
太もも裏側のストレッチ
- 椅子に座り、片方の脚を前に伸ばします。
- 背筋を伸ばしたまま、伸ばした脚のつま先に向かって上体を倒していきます。
- 太もも裏側が伸びるのを感じたら、その位置で20〜30秒キープします。
- 反対側も同様に行います。
温熱・冷却療法
症状に応じて、温めたり冷やしたりすることで痛みを和らげることができます:
- 冷却療法:急性期の痛みや腫れがある場合は、前述のように冷却が効果的です。
- 温熱療法:慢性的な痛みや硬さがある場合は、入浴後や温かいタオルで患部を温めると血行が促進され、痛みが和らぐことがあります。温熱パッドや温湿布も効果的ですが、20分以上の連続使用は避けましょう。
- 交互療法:温めて冷やす交互療法も効果的なことがあります。まず10分温め、その後10分冷やす、という方法を試してみましょう。
適切な日常生活の工夫
膝の痛みがある時には、日常生活でも以下のような工夫をすることで負担を軽減できます:
- 体重管理:過体重は膝への負担を増加させるため、適正体重の維持を心がけましょう。体重が5kg減るだけでも、膝への負荷は大幅に軽減します。
- 適切な靴選び:クッション性の良い靴や、必要に応じてインソールを使用し、衝撃を吸収しましょう。
- 膝への負担を減らす動作:階段を上る際は健康な脚から、下りる際は痛みのある脚から先に出すと負担が軽減されます。
- 補助具の活用:必要に応じて杖や膝サポーターを使用して、膝への負担を分散させましょう。
- 長時間の同じ姿勢を避ける:長時間の立ち仕事や座り続ける仕事では、定期的に姿勢を変えたり、ストレッチをしたりしましょう。
膝の痛み予防のポイント
筋力トレーニング
膝を支える筋肉(特に太ももの筋肉)を定期的に強化することで、関節の安定性を高め、痛みを予防できます。
適切な運動選択
水泳やサイクリングなど、膝に負担の少ない有酸素運動を選ぶことで、関節への衝撃を最小限に抑えながら体力を維持できます。
適正体重の維持
過体重は膝関節への負担を増加させるため、バランスの良い食事と適度な運動で体重管理を心がけましょう。
準備運動と整理運動
運動前の十分なウォームアップと、運動後のクールダウンで筋肉や関節への負担を軽減し、怪我を予防します。
適切な靴とインソール
クッション性の良い靴や、必要に応じて足のアーチをサポートするインソールを使用することで、膝への衝撃を軽減できます。
適切な動作と姿勢
重いものを持ち上げる際は膝ではなく腰を曲げ、正しい姿勢を心がけることで膝への負担を減らしましょう。
専門家に相談すべき状況
以下のような症状がある場合は、整形外科医や整骨院、接骨院などの専門家に相談しましょう:
- 膝に激しい痛みがあり、体重をかけられない
- 膝が明らかに変形している、または大きく腫れている
- 膝がロックして曲げ伸ばしができない
- 膝に不安定感があり、突然「ガクッ」となることがある
- 転倒や衝突など、明らかな外傷後に膝の痛みが生じた
- 膝に発赤や熱感があり、全身に発熱を伴う
- 数日間の自己管理で症状が改善しない、または悪化している
- 日常生活に支障をきたすほどの痛みが続いている
膝の痛みに対応する専門家
膝の痛みの種類や原因に応じて、以下のような専門家に相談することが考えられます:
- 整形外科医:膝の構造的な問題、靭帯損傷、変形性膝関節症などの診断と治療
- リウマチ科医:関節リウマチなどの炎症性疾患の診断と治療
- 理学療法士:適切なエクササイズ指導やリハビリテーション
- 整骨院・接骨院:スポーツ外傷や筋肉、関節のバランス調整
- スポーツ医学専門医:スポーツに関連した膝の問題(特にアスリートの場合)
専門家による膝の痛みの主な治療法
膝の痛みの原因や重症度によって様々な治療法があります。自己管理で改善しない場合に考えられる主な治療法は以下の通りです: